Windows サイドバー ガジェット 作成入門
Windows サイドバー ガジェット の作成についての簡単な解説です。
序文
本解説を読むには、マーク付け言語 (XHTML 1.0 [XHTML1], XML 1.0 [XML1]) 、スタイルシート言語 (Cascading Style Sheets, level 2 [CSS2]) 、スクリプト言語 (ECMAScript [ECMAScript] (JavaScript [JavaScript], Microsoft JScript [JScript])) 、HTML文書オブジェクトモデル (Document Object Model (DOM) Level 2 [DOM2]) などの基本的な知識が少々必要になります。この他にも Dynamic HTML [DHTML]、Windows Script Host [WSH]、Microsoft VBScript [VBScript] 等についても触れることになるでしょうから、それらの予備知識(詳細は参照文書を参照の事)も多少なり必要になるかも知れません。従って全くの初心者向けの解説書ではありません。
しかし、Windows サイドバー ガジェットを作成する際には、これら全てを知っておく必要は全くありません。最低でもマーク付け言語(HTML 4.01 [HTML4)及びスクリプト言語(JavaScript [JavaScript])の知識が多少あれば十分です。開発中に必要になる技術があれば、足りない知識を補えば良いでしょう。筆者である私だって、最初は HTML の知識すら無かったのですから──。
本解説では、筆者である私が実際に Windows サイドバー ガジェットを作成して気付いた事を中心に綴っています。Windows サイドバー ガジェットの作成が全く初めての方でも、本解説を読まれる事で作成方法が理解できる内容になっていると思います。本解説が皆さんがガジェット作成に挑戦する切っ掛け、また参考になれば幸いです。
Windows サイドバーとガジェットについて
Windows サイドバーとガジェットとは、Windows Vista の新機能のひとつです。
Windows サイドバーは、デスクトップの片側(左右のどちらか一方。デフォルトでは右側)に表示される長い垂直バーです。簡単に説明すると、ガジェットを格納しておく為のデスクトップ上の領域(場所)で、そこにガジェットを幾つでも追加(格納)することができます。
ガジェットは、Windows サイドバーに格納しておける比較的小さなプログラムです。通常のアプリケーションの様にデスクトップ上に配置して使用することもできます。ガジェットの機能によっては、時刻や天気予報、CPU やメモリの使用率などといった継続的に更新される情報を表示したりすることができます。
Windows Live Gallery では、様々なガジェットが登録・配布されています。
注釈
- Windows サイドバー ガジェットを実行する為には、Windows サイドバーが実行されている必要があります。もし、実行されていない場合は、予め Windows サイドバーを起動しておく必要があります。
- コンピュータにインストールされているガジェットは、ガジェット ギャラリーで確認できます。また、追加のガジェットを入手してインストールできます。
- Windows サイドバー及びガジェットの使用方法に関する事項については、
Windowsヘルプとサポート
(サイドバーを右クリックしてヘルプ
を選択するか、スタートメニュー
からWindows ヘルプとサポート
を選択)にてご確認ください。
開発に必要な環境
Windows サイドバー ガジェットは、マーク付け言語及びスクリプト言語などの既存の技術を用いて(組み合わせて)開発できます。マーク付け言語やスクリプト言語などの知識が多少あれば、Windows に付属するメモ帳などのテキストエディッタだけで容易に作成できます。勿論、MS 社が提供する Windows Software Development Kit (SDK) [WindowsSDK] 及び、Visual Studio 2005(フルバージョン、フリーの Visual Studio 2005 Express Edition のどちらでも可)、Microsoft Expression Web Designer [MicrosoftExpression] といった便利な開発ツールを使用するのも良いでしょう。
Microsoft XML Core Services [MSXML] の IXMLHTTPRequest、及び Dynamic HTML [DHTML] の XMLHttpRequest オブジェクト [XMLHttpRequest] を利用した非同期通信(所謂 Ajax と最近呼ばれるようになった技術手法)や、Windows サイドバー ガジェットの為に用意されている API [GadgetAPI] の execute
メソッドや WSH [WSH] の Run
メソッドや Exec
メソッドを利用して他のアプリケーションを実行することも可能です。発想力次第では高機能なプログラムの開発をガジェットで実現できます。
比較的に習得が容易で一般的な既存の技術によって開発できるので、知識が全く無くても、独りでパソコンを使える方なら、多少の勉強と情報収集、そして何より発想力と根気があれば、誰でも何か形作れるかと思います。もし、貴方が過去に Windows Script Host [WSH] や HTML Applications [HTA] で製作した作品があるならば、それらをガジェットに移植するのは難しくありません。
ちなみに、私が作成/公開しているガジェットは、本サイト内のソフトウェア工房から入手できます。私の開発環境は、常日頃より愛用しているxyzzyです。ガジェット開発に際しては、xml-mode 又は html+-mode、jscript-mode 又は javascript-mode、css+-mode(自作)等の拡張メジャーモードが役立つのでお勧めです。また、画像処理には GIMP for Windows(日本語版)を使用しています。
注釈
- Windows サイドバー ガジェットは、ガジェット独自の API [GadgetAPI] を使用する必要がある為、当然 Windows Vista 以前の Windows や他の OS 上ではガジェットを実行することができません。現時点では、Windows Vista (32bit(x86) または 64bit(x64) の各エディション) 専用プログラムです。今後開発されるであろう Vista 以降の Windows でも、WSH や HTA のように受け継がれることでしょう。
- Windows サイドバー ガジェットを作成する際には、
フォルダ オプション
の設定を、ファイルとフォルダの表示
の項目をすべてのファイルとフォルダを表示する
を有効に、また、登録されている拡張子は表示しない
のチェックを無効にしておくことを推奨します。
ガジェットを作成する手順
Windows サイドバー ガジェットを作成する手順は、所謂ウェブページ(通常の X/HTML 文書)を作成する手順と変わりありません。作成するガジェットの機能の大小等に関係なく、大まかに次の流れで作業を進めることになります。
- ガジェットを格納する為のディレクトリ(
*.gadget
)の作成 - ガジェット本体であり UI となる HTML ファイル(
*.html
)の作成 - ガジェットに設定機能を提供する場合に限り、設定機能の UI となる HTML ファイル(
*.html
)の作成 - ガジェットの情報を明示しておく XML ファイル、ガジェット マニフェスト(
gadget.xml
)の作成 - 完成したガジェットの動作テストとバグの修正
- ガジェットのインストールパッケージ(
*.gadget
)の作成
注釈
- 設定機能の UI は、ガジェットに設定機能を提供する場合のみ必要になります。
- 外部スクリプトやスタイルシート、画像ファイル等は必要に応じて作成します。
- ガジェットの動作テストを行う際(ガジェットが使用する一連のファイルを更新/修正などをした場合)には、起動中のガジェットを一度閉じてから再度ガジェットを起動し直して下さい。それでも稀に、変更した状態の動作が得られない事があります。その様な場合には、サイドバーを終了して再度サイドバーを起動し直すと正常に動作する場合があります。それでもガジェットの動作に問題がある場合には、貴方が作成したガジェットに致命的なエラーが発生している可能性が考えられます。
ユーザインターフェイス
Windows サイドバー ガジェットのユーザインターフェイス(UI)は、X/HTML [X/HTML] で内容の構造や情報などをマーク付けした HTML ファイルにより提供します。この為、所謂ウェブページ(通常の X/HTML 文書)の作成経験がある方であれば、Windows サイドバー ガジェットを容易に作成することができます。
Microsoft 社が想定しているガジェットの UI で使われ得るマーク付け言語は、[X/HTML] を模した HTML モドキとも言える MSHTML であることは、MSDN(相変わらず酷いマーク付けだな・・・)で参照できる Windows サイドバー ガジェットについての関連文書から見て取れる。そもそもガジェットは Windows Vista 専用なので、通常のHTML文書のように標準準拠や各種仕様を考慮する必要は無い。つまり、妥当(valid)且つ厳密(strict)なマーク付け等に拘る必要は一切無用──。
とも言えなくも無い。ガジェットの作成においても、飽く迄標準仕様に拘るかどうかは、個々の製作者の理念と判断によるところだろう。
注釈
- X/HTML 文書 [SGML] には、厳密には文書型宣言が必用です(
<!DOCTYPE
は必須か?)。 - XHTML 1.1 [XHTML11] は完全な XML です。MSIE が
application/xhtml+xml
媒体型及びその拡張子(xhtml, xht)に未対応なのでガジェットでも使用できません。回避手段としてtext/html
媒体型及びその拡張子(html, htm)を XHTML 1.1 に対して使用するのは不適切です。
機能
Windows サイドバー ガジェットの機能は、ガジェット本体であり UI となる HTML ファイルと連携するか、又はそれに直接組み込まれるプログラムにより実現します。このプログラムは、所謂ウェブページ(通常の X/HTML 文書)と同じく、ガジェットが起動する際に実行されたり、組込みイベントにより何らかのイベントが発生した際などに実行されたりします。script
要素中のスクリプトが実行される点は、通常の X/HTML 文書に添付したスクリプトが実行されるのと何ら変わりありません。
注釈
- ガジェットの UI に組み込めるスクリプト言語は、JavaScript [JavaScript] と Microsoft JScript [JScript] 及び Microsoft VBScript [VBScript] に限られます(実際に PerlScript などの他のスクリプト言語も試してみましたが実行できませんでした)。
- 組み込めるスクリプト言語であっても実行できない命令があります。例えば、JavaScript [JavaScript] の
alert
関数(window
オブジェクトのalert
メソッド)は実行できません。 - Windows サイドバー ガジェットには、ガジェット専用の API [GadgetAPI] があり、サイドバーから切り離した時の動作やガジェットの設定機能などを提供することができます。
背景
Windows サイドバー ガジェットの背景(即ち表示を行う表面)には、色と画像を指定できます。
背景に画像を指定する場合、不透明度を設定できる PNG 形式の画像ファイルを指定することで、透過部分にデスクトップを透かすことができます。つまり、ガジェットの形状を単に角が尖った四角形ではなく丸型やハートなどの任意の形状で表現できます。
g:background
要素 [GadgetAPI]- XHTML [XHTMLMOD] を拡張する
g:background
要素(要素内容は空)は、ガジェットの背景に画像を埋め込む。通常はsrc
属性が指し示す画像が背景として適用されるが、src
属性が未指定の場合には背景が透過する(つまり背景が無色透明になる)。また、要素識別子(id
属性とclass
属性)を付与できる。尚、接頭辞g
に名前空間はありません。 - [XHTML1] における使用例
<g:background id="imgBackground" src="background.png" />
System.Gadget.background
プロパティ [GadgetAPI]- スクリプトの記述によりガジェットの背景に画像を指定します。
- [ECMAScript] ([JavaScript], [JScript]) における使用例
System.Gadget.background = "background.png";
background
プロパティ [CSS], [DOM2-Style]- CSS によりガジェットの背景に画像を指定します。背景プロパティを指定する場合、
html
要素より寧ろbody
要素に背景指定することを推奨する。 - [CSS] における使用例
body { background: url("background.png"); }
- [ECMAScript] (DOM2 CSS2 [DOM2-Style]) における使用例
document.body.style.backgroundImage = "background.png";
筆者の見解として、厳密なマーク付けの観点からすると、g:background
要素の使用は推奨できない。DTD なりスキーマを拡張さえすれば文書の構造として問題ないが、視覚的表現を文書内容と分離するという観点からしてもやはり推奨できない。
注釈
- ガジェットの寸法(幅及び高さ)は、最低でも幅25px~130px以内、高さ60px以上でなければなりません。尚、初期値の寸法は、25*60px(幅×高さ)です。
設定ダイアログ
ガジェットの設定ダイアログの UI となる HTML ファイルを用意すると、Windows サイドバー ガジェットで設定機能を提供することができます。ガジェットに設定機能を実装することで、ユーザ設定の変更や適用が行えます。
ガジェットの設定ダイアログの UI では、HTML [HTML] のフォームを利用します。そして、特定のイベントが発生する度に実行されるスクリプトを用います。具体的には、Windows サイドバー ガジェット専用の API [GadgetAPI] を使用し、ガジェットの設定ダイアログでは System.Gadget.onSettingsClosing
プロパティ、ガジェット本体では System.Gadget.onSettingsClosed
プロパティにそれぞれハンドラ関数の設定が必要になります。
注釈
- ガジェットに設定機能を実装する場合には、
System.Gadget.settingsUI
プロパティ [GadgetAPI] を使用して、設定ダイアログの UI となる HTML ファイルの所在を指定する必要があります。
ガジェット マニフェスト
ガジェット マニフェスト [GadgetManifest] は、Windows サイドバー ガジェットの為に一般的構成や情報を含むXMLファイルです。マニフェストによって指定された情報は、ガジェット、及びガジェット ギャラリでユーザに提示されます。
注釈
- ガジェット マニフェスト [GadgetManifest] のファイル名称は
gadget.xml
と規定されています。 - ガジェット マニフェスト [GadgetManifest] は、XML 文書構造ですが、内容を拡張したりすることは一切できません。マニフェストに DTD やスキーマは存在しない為、well-formed(整形式)である XML 文書であることは当然のこと、暗黙の要素構造や規則に従う必要があります。
gadget/hosts/host/base[type="HTML"]
ノードにて指定されるガジェットの UI となる HTML ファイルは、拡張子が.xml
でも指定できます。但し、HTML 文書として解析される為、xml-stylesheet
処理命令などは一切無視します。
ローカライズ
Windows サイドバー ガジェットをローカライズ(ある国向け用)するには、以下のような手順を踏みます。
- ガジェットのディレクトリの中にローカライズする言語ごとのディレクトリを新規作成します。作成したディレクトリにその言語用のガジェットを格納します。仮に英語用のガジェットを作成する場合には「en-US」、日本語用のガジェットを作成する場合には「ja-JP」ディレクトリとします。特に言語に依存しないガジェットであれば、言語ごとのサブディレクトリは必要ありません。
- 各言語用ディレクトリにその言語の為のガジェット マニフェスト(
gadget.xml
)ファイルを作成します。 - 各言語用ディレクトリにローカライズを必要とするファイルを配置します。
インストールパッケージ
Windows サイドバー ガジェットのパッケージの作成方法は、作成したWindows サイドバー ガジェットを ZIP 形式で可逆圧縮した後にファイル名拡張子を gadget
に変更するだけと至って簡単です。そして、インストールするには、拡張子が gadget
のファイルを実行するだけです。
もしも、パッケージにデジタル署名を付加したい場合には、圧縮形式に CAB 形式を用います。デジタル署名が付加されたパッケージでは、ユーザがパッケージの信頼性を確認した上でインストールを実行できます。然しながら、デジタル証明の取得や維持には、第三者機関が絡むので当然費用が発生します。ですから、企業や団体等が配布する場合を除き、個人が趣味で作成・配布する場合においては、一般的にZIP形式が殆どでしょう。